【県の再生エネ構想】財源どう確保 必要額5000億円「財務省の壁」

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの県土復興を、再生可能エネルギー関連産業の振興に懸ける県の構想が動き始めた。平野を覆うソーラーパネルが日の光を受け、山の尾根では風車が風をつかみ、電力を生み出す未来絵図。しかし、5千億円を超える財源確保や広大な用地取得など課題は山積みで、事業をどう軌道に乗せるのか手探りが続く。

■出し渋り

 「ほっとした。これで、第一歩が踏み出せる」。県商工労働部の職員は、第3次補正予算案の省庁要求に本県への再生可能エネルギーの研究拠点整備として1千億円程度が盛り込まれたことに、胸をなで下ろした。

 県は再生可能エネルギー関連産業の基盤整備の経費を5千億円と見積もる。計画推進には国の財政支援が不可欠だ。政府の復興基本方針に本県での「新エネルギー構想」が盛り込まれたことを受け、職員は、経済産業省に五回ほど足を運んだが、反応は芳しくなかった。「構想に具体性がない」「箱物には金が掛かりすぎる」−。基本方針で本県支援を打ち出したにもかかわらず、冷たい反応に鼻白む思いがした。

 省庁の背後に立ちはだかるのは、財政再建を目指す「財務省の壁」だ。「学校の表土除去では私立学校への補助率が抑えられた」。毎週のように同省に通う県幹部の一人は強い不満を抱く。

 県は再生可能エネルギー関連の残る4千億円についても早急に予算化するよう国に求めていく。しかし、復興のための財源確保に四苦八苦する中、要望がどこまで受け入れられるかは不透明だ。

■リスク

 県の描く再生可能エネルギー発電の青写真に、先進地の関係者は「甘くはない」とくぎを刺す。

 村営風力発電所を運営する天栄村。夏の夕暮れが迫ると、村産業振興課職員は決まって胃が痛む。風車への落雷が心配なためだ。年間約550万キロワット時前後を発電し、東北電力に売電している。年間約6千万円の収入は維持管理費を除いて積み立てられ、再生可能エネルギー事業などに充てられる。貴重な自主財源となる。

 しかし、平成20年度は落雷の影響で発電量が359万キロワット時にまで減少、収入も3割近く落ち込み、穴埋めに苦慮した。


広大な用地必要 雇用への効果も不透明

 県は再生可能エネルギー発電関連の産業集積により、原発事故で失われた雇用の場づくりを目指す。しかし、早くも「思惑通りにいかない」との指摘がでている。ソーラーパネルを設置する広大な用地確保も課題だ。

■人手いらず

 南相馬市出身で元東京電力執行役員が代表を務めるNPO法人「オフィス町内会」は来年10月までに太陽光発電施設を同市に整備する。売電による収益で県内外の子どもたちの交流事業を展開し、本県の復興を支援する計画だ。

 約1000キロワットの発電用パネルや管理棟などを備える計画だが、施設の維持管理の人員は2、3人程度で事足りるという。一度、パネルを組み立ててしまえば手入れは少ない。同法人の関係者は「太陽光発電は人件費が少なくて済むため可能性を秘めている」と理由を説明する。

 一方、同市では別の農業者団体が太陽光発電施設を設け、野菜のハウス栽培に取り組む構想を掲げる。将来的には原発事故の被災者や新規就農者の雇用を目指す。再生可能エネルギーの可能性について研究している市経済部の担当者は「太陽光発電が別な産業と結びついて雇用を生み出すケースの好例になる」と期待する。

 県商工労働部は太陽光発電の雇用効果は、発電可能量千キロワット程度で二人程度、風力発電は風車一基当たり一人と見込んでいる。県は今後、10年間で太陽光は100万キロワット分の発電施設集積を目指す。2千人の職場が確保される計算だが、約1万人とみられる浜通りの原発関連労働者の受け皿にはほど遠い数字だ。

■高いハードル

 太陽光発電施設には、1000キロワット当たり3ヘクタールの敷地が必要になる。県が100万キロワット分を整備するためには、東京ドーム約650個分の面積確保を迫られる。

 県は県内工場の敷地や壁面をソーラーパネルで覆う案、遊休地を活用する案を練るが、いずれも所有者の同意というハードルを越えなければならない。

 西郷村と下郷町は、米国の経営コンサルティング会社から提案を受けた「野菜工場」誘致の検討を始めた。

 太陽光や水力、地熱などを発電源に、人工土壌で野菜を生産する構想で、下郷の場合、昭和40年代に国営農地開発事業により造成した190ヘクタールの遊休農地が候補に挙がる。

 しかし、荒廃が進み所有権が複数の個人にまたがっているため買収は難しいという。他に適地が見つからず、下郷町総務課の担当者は「用地が用意できなければ、企業が来ることはない」とため息をつく。

【背景】
 政府は7月に決定した東日本大震災からの復興基本方針に、被災地に最新型の太陽光、風力発電設備を整備し、再生可能エネルギー関連産業を集積することを盛り込んだ。県は8月にまとめた復興ビジョンで、「脱原発」の基本理念の下、再生可能エネルギー産業の集積による新たな社会づくりを進める考えを打ち出した。研究開発拠点の設置、誘致企業への補助金などで5千億円程度が必要になると試算。このうちの一部を原資に基金を造成する方針で、国に財政支援を求めている。