【市町村復興計画が始動】 社会資本、復旧進まず 放射性がれき障壁
「福島再生」に向け、被災自治体の策定した復興計画が動きだした。津波被害を受けた沿岸部のまちづくり、避難者の帰宅を目指した社会資本の復旧などが柱となるが、大量のがれき処理や人手不足が要因で前進しないケースも出ている。一方、震災から半年がたつ今も国の復興策は具体像が見えてこない。「遅い」。残暑の中で県関係者のいら立ちが募る。
■お手上げ
津波で被害を受けたいわき市久之浜地区。小学校校庭にオープンした仮設商店街「浜風商店街」は、9日も常連客でにぎわった。雑貨店、飲食店、理容店など九軒が軒を連ねて活気づく。「商売人としてうれしい限り。これまで以上にお客さんとの距離に近くなった気がする」。浜風商店街会長でスーパー経営の遠藤利勝さん(47)は、古里の復興に大きな手応えをつかんでいる。
市は地域再生の「教典」となる復興ビジョン素案に、沿岸部の社会資本再整備に向け、災害ごみを効率的に処理する方針を盛り込んだ。浜風商店街周辺の廃棄物は撤去が進む。しかし、15キロ離れた海岸近くの豊間中校庭には全壊した家屋のがれきがうず高く積まれたままだ。市内全体で、15万トン以上の家屋のがれきが残っている。
市は2カ所の清掃センターで焼却処分する方針だが、がれきに付着した放射性物質の拡散を懸念する住民から反対意見が出て計画は一向に進まない。代替方法も見当たらず、このままでは沿岸部での宅地、緑地建設といった都市計画を進めることができない。市の復興担当者は「お手上げだ。原発を推進してきた国の責任で処分してもらうしかない」と諦め顔を浮かべる。
■人手不足
南相馬市の復興ビジョンは、社会資本整備を最優先課題の一つに掲げる。破損した道路や上下水道の復旧を急ピッチで進め、市外から避難者を呼び戻す狙いからだ。
しかし、市民7万7万1千人のうち3万人が県外に避難している影響で業者の人手が集まらない。相双公共職業安定所の建設関係の求人数は昨年の二倍の数に上っているが、応募は少ない。市内の建設業者は今月に入り従業員の募集を開始した。だが、一人も現れない。「工事を早く進めるためには、できるだけ多く頭数が欲しいのだが」と嘆いた。
国の特区、中身不明 申請準備、滞る 「不公平」と会津から不満
「福島再生」を後押しする国の復興基本方針の柱は復興特区の創設だ。しかし、その全容が見えず、特区申請を目指す県の準備作業は滞っている。一方、県の復興ビジョンには一部市町村から不満の声も聞かれる。
■焦り
「遅い。制度設計をすぐ示してもらわないと予算づくりに間に合わない」。県の重点事業の内容を練る企画調整部職員は、平成24年度予算の編成作業スケジュールをにらみ焦りの色を隠さない。
7月に決定した国の復興基本方針。被災地域の提案する支援策実現のため「復興特区制度」を創設する内容が盛り込まれた。税制の優遇措置、土地利用の規制緩和などが特区の柱となる見込み。だが、どのような事業が対象となるのか、提案者は県か市町村か、特区の範囲は、など制度の詳細が示されない。
県は復興特区を活用して産業集積を進める予算を来年度から確保する方針だが、作業は滞ったままだ。年末にかけて本格化する予算編成作業に遅れが生じる可能性もある。
特区の詳細が明らかになっていない理由を、政府の東日本大震災復興対策本部の担当者は「かつてない大災害で、制度設計に向け省庁間の協議に時間がかかっている。年内に示したいが約束できない」と心もとない説明に終始している。
■目向いてない
県復興計画の土台となる復興ビジョンには、再生可能エネルギーや放射線、除染の研究拠点を県内に整備する将来構想が盛り込まれた。だが、この内容に会津地方の自治体関係者らは警戒感を示す。
再生可能エネルギーは原発の「代替産業」として位置付けられており、主に浜通りへの集積が想定される。放射線、除染研究は福島医大、福島大との連携が不可欠で、関連施設を福島市の大学周辺に建設するのが理想的だ。会津若松市企画政策部の職員は「会津地方に目が向いていないという印象が否めない」とこぼす。復興ビジョンに盛り込まれた観光の風評被害対策は、「観光キャンペーンの強化」の一行だけだった。
会津地方の経済は、半導体関連産業のリストラや大型商業施設の撤退などで厳しさを増す。風評被害で観光産業がダメージを受け、会津若松市の教育旅行は例年の2割ほど。震災による建造物の修復工事は少なく、「特需」も期待できない。会津17市町村の7月の有効求人倍率は0・55倍で、県平均を0・04ポイント下回った。
県企画調整部には、「苦しいのは同じ。視野を広げ復興策を打ち出して」との要望が届いている。県は復興計画策定に向け方部会議で要望を吸い上げるが、限りある財源をバランスよく配分できるか手腕が問われる。
【背景】
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を受け、政府は7月、「復興特区制度の設立」「地域経済活動の再生」「原子力災害からの復興」を柱とした復興基本方針を策定した。今後、事業が本格化するが、制度概要が決まっていないものも多い。一方、県は8月、「脱原発」などを基本理念とした県復興ビジョンを策定。ビジョンに盛り込まれた「地域の再生」「新たな産業創出」「災害に強い社会づくり」など127の事業を具体化する県復興計画を年内に策定するが、財源確保などが課題となる。市町村では、津波被害があった浜通りの10市町などが復興計画の策定を急いでいる。