【県内3セク観光施設苦境】風評で客激減 自治体に頼るしか...

学生ら団体客のキャンセルが相次ぎ閑散としたロビー=7日、棚倉町・ルネサンス棚倉

 東京電力福島第一原発事故を受け、自治体や第3セクターの公社などが運営する観光施設などが苦境に立たされている。矢祭町のユーパル矢祭は風評被害で客入りが激減し、町が1800万円を補填(ほてん)した。棚倉町のルネサンス棚倉も金融機関からの資金借り入れが膨らんでいる。「血税を投入するのか」「自治体が助けるしかない」。手探りの経営が続く。伊達市霊山町の霊山こどもの村では除染に乗りだすが、利用者が戻るかは不透明だ。

■閑古鳥

 棚倉町のスポーツリゾート施設ルネサンス棚倉。東京電力福島第一原発事故の影響で予約の取り消しが相次ぎ、9月末までで2万5000人、金額にして1億2000万円分がキャンセルになった。施設関係者は「ドル箱だった学生客を失った。見ての通りの閑古鳥」と閑散としたロビーやレストランに目をやる。

 施設は町などが出資する株式会社ルネサンス棚倉が運営している。学生のスポーツ合宿などで年間38万人が利用し、年間収入3億8000万円のうち約7割を学生が占めていたが、原発事故が起きた3月から8月までの利用者は前年同期比で19万人減り、収入は5500万円以上落ち込んでいる。

 避難所としての利用でこれまでに3500万円程度を確保できたが、現在も身を寄せている5世帯18人が仮設住宅やアパートに移れば、1人当たり5000円の収入もなくなる。温泉の利用時間を短縮するなど経費節減に努め、震災復興宿泊プランを売り込んでいるが客足は戻ってきていない。金融機関からの借入額は1億5000万円に膨らんだ。柴田信之総支配人は「大変厳しい状況だが死に物狂いでやるしかない」と前を向く。

■てこ入れ

 矢祭町の財団法人矢祭振興公社が運営する温泉宿泊施設ユーパル矢祭も客足が戻らず、苦しい経営が続く。赤字経営から脱却するため、自主再建の道を模索してきたが、風評被害による大幅な減収で町からの財政支援を余儀なくされている。

 毎年、夏のスイミングスクールの合宿で1000万円の収入を得ていたが、今年は震災や原発事故の風評被害で全て水の泡になった。5、6月に予定していた3組の婚礼で1800万円の売り上げを見込んでいたが、それも延期になった。

 売り上げは8月末現在、前年同期に比べ2割落ち込んだ。最終的には6000万円ほどの減収になる見通しで、町から管理委託料として1800万円を補填してもらい、何とかしのいでいる状態だ。

 宿泊から日帰りに切り替える県外客も少なくない。永山雅英支配人は「自力再建が理想だが、県や町の支援なしには難局を乗り越えられない」と明かす。

■あの手この手

 塙町振興公社が運営する温泉宿泊施設「湯遊ランドはなわ」は大震災で温泉が枯渇した上、風評被害とのダブルパンチで当初は苦境にあったが、積極的な営業活動で盛り返している。

 町と災害時相互応援協定を結び交流を続けてきた東京都の練馬区や葛飾区などに塙応援宿泊プランを売り込んだ。老人クラブをターゲットにした誘客も奏功し、客足は回復傾向にある。4月からの宿泊客数は8月末現在で前年比484人増という好結果につながった。温泉の掘削工事も順調で、年内にも温泉営業が再開できる見通しだ。

 ただ、8月末まで避難者が宿泊したことで稼働率を維持できた面もある。売り上げは前年比を割り込んでおり楽観できない。佐藤幸一総支配人は「今年は20年近く交流してきた都民に助けてもらったが、来年はどうなるか分からない。これからが本当の正念場」と表情を引き締めた。

【背景】
 県や市町村の財政状況を点検する自治体財政健全化法が平成21年4月に全面施行された。20年度決算から一般会計だけでなく、自治体が出資している第3セクターや地方公社などの経営状況も自治体の財政悪化を判断する対象になった。市町村からの出資割合、貸付金、損失補償などの関与の度合いに応じて経営状況が判定される。総務省は、自治体からの財政援助を除くと赤字になる場合や、資産を売っても負債を返せない場合は「採算性がない」と判断すべきとしている。事業継続の是非、売却や清算の必要性が指摘されているが、赤字であっても地域振興に重要な役割を果たしているケースもある。