【子どものガラスバッジ調査】健康対策 示されず 市町村任せに疑問の声

外部被ばく量を測定する個人積算線量計(ガラスバッジ)の子どもらへの配布をめぐり、県民や市町村がどう健康対策に生かすか困惑している。伊達市は結果に福島医大の教授の所見を添付したが、今後の生活に対する指示はない。川俣町は今のところ、数値を通知するのみにとどまっている。一方、郡山市が5日に配布を始めるなど、全ての市町村がバッジか線量計を配る計画を持つ。県はバッジ配布に補助しているが、その後の対応は市町村任せ。国の支援もなく、関係者は疑問を投げ掛けている。
■何を伝えれば
伊達市は3日から分析結果を対象者約8400人に配布した。結果には数値と、市健康管理アドバイザーの宍戸文男・福島医大教授のアドバイスを添付。今後除染でさらに数値が下がることや、健康被害がないと予測されることなどが記載されている。
「数値別にコメントを書き分けることが必要だ」。4日の市災害対策本部会議で、仁志田昇司市長は、アドバイスが総括的なコメントにとどまり具体的な対応策がないため、改善する考えを示した。さらに今後、健康相談会を開く予定。
川俣町は7月から3カ月ごとに約2500人の積算放射線量を測定している。町によると、3カ月で最大約1ミリシーベルトを被ばくしたとの測定結果が出ているという。現在は乳幼児や妊婦、高校生の結果を通知するにとどまっているが、町教委は「今月末には園児や小中学生らの測定結果も出そろう。その後、町復興支援アドバイザーの近畿大に結果分析を依頼し、来月には結果を踏まえた健康への影響などについて説明会を開きたい」とする。
福島市は9月に測定したガラスバッジを住民から回収しており、間もなく測定結果を住民に通知する。その際、数値以外の何らかのコメントを付けるかどうかを検討しているが、結論は出ていない。担当者は「積算線量を評価する基準が明確でなく、市レベルでは数値を基に住民に何を伝えればいいのか、判断できない」と実情を明かした。
ガラスバッジは1カ月や3カ月の期間を区切り、その期間の外部被ばくの積算線量を算出する。ただ、0・1ミリシーベルトの単位までしか測定できない。例えば0・06ミリシーベルトは「0・1ミリシーベルト」の表示となるが、0・04ミリシーベルトは「0」となるという。
■素っ気ない国
「数値だけが分かっても住民は納得しない」。市町村の担当者からは国、県の対応に批判が漏れる。
ある自治体の担当者は「国、県の動きは遅過ぎる。放射線の数値の分析や具体的な対応について早急に支援すべき。市町村任せにするのはおかしい」と憤っている。
文部科学省の原子力災害対策支援本部は「(ガラスバッジ配布は)市町村独自の取り組みであり、支援などの対応をする考えはない」と素っ気ない。
県は測定結果の住民説明について「まずは市町村が行うべき」とするが、専門家派遣などの要請があれば支援をする方針。
保護者に安心と戸惑い 「線量確認できたが...」郡山では受け取り辞退も
東京電力福島第一原発事故による放射線を測定するため市町村が子どもらに配布している個人積算線量計(ガラスバッジ)に対し、保護者の受け止め方はさまざまだ。被ばく量を確認できて安心感につながるとの声がある一方、「結果をどう生活に生かせばいいか分からない」との戸惑いも広がる。5日に配布が始まった郡山市では、不安をあおるなどの理由で3900人を超える保護者が受け取りを希望しなかった。
■数値のみ
「え、こんなに高いの...」。川俣町の主婦(39)は三女(3つ)とゼロ歳の四女の測定結果を町から受け、がくぜんとした。7月から9月まで約3カ月の積算線量は三女が0・68ミリシーベルト、四女が0・62ミリシーベルト。「マイクロ」ではなく、「ミリ」と表記されたことで、あらためてわが子の健康が心配になった。
町から借りた線量計で家の空間線量を調べたところ、庭の一部は毎時1・4マイクロシーベルトを計測した。積算線量の数値を知り、このまま今の生活を続けていいのか心の中に迷いが生まれた。測定結果の通知に記されているのは数値だけで答えは得られず、「自分はどうすればいいのか。誰か教えてほしい」と訴える。
三春町のパート従業員の女性(40)は「ほっとした」と話す。小学6年の長男の年間積算線量は0・45ミリシーベルトと推定された。政府が基準の一つにする年間1ミリシーベルトを下回ったことで、自分なりに安心感を持てたという。
それでも、将来どんな影響があるのか不安が完全に消えたわけではない。三春町も個々の数値への評価は示しておらず、「専門家に『大丈夫』とお墨付きを与えてほしい」と求める。
伊達市霊山町の会社員男性(41)は小学4年の長男が8月の1カ月で0・2ミリシーベルトと測定された。「医師の助言はあっても個々の状況に触れていなければ意味がない」と不満を口にした。
■精神的な負担
郡山市でガラスバッジを受け取らなかったのは3936人で、配布対象の2万9663人の13・3%に当たる。
「原発事故からもう半年以上が過ぎている。遅すぎる」と、市内の主婦(43)は家族で話し合い、小学6年の長女の測定を断った。
本当に知りたかったのは、最も空間線量が高かった原発事故直後の被ばく量だった。放射性ヨウ素の半減期が過ぎ、除染も進む今になって測定するメリットよりも、ガラスバッジを身に着け常に放射線を意識した生活を送らせる精神的な負担を心配する。
市教委によると、「管理されているようだ」「地元の線量がそれほど高くない」などの理由もあったという。
他の自治体でも受け取りを希望しないケースが出ている。福島市は9月末までの小中学生、幼稚園児の配布対象約2万6200人のうち、1割程度の約3200人が受け取らなかった。
三春町では小中学生約1600人のうち約200人が希望しなかった。伊達市では、8月分として配布した約8600人のうち約200人が市に返却しなかったため測定できなかったという。
【背景】
個人積算線量計(ガラスバッジ)は原発事故に伴い、放射線に対する子どもや保護者の不安を払拭(ふっしょく)しようと、川俣町が6月下旬に県内のトップを切り配布を始めた。県によると、9月末までに福島、二本松、伊達、本宮各市など17市町村がガラスバッジを配布している。大玉、北塩原、湯川、西郷の4村は線量計を貸し出している。