上質の牛これからも 枝肉共励会で「日本一」 色や光沢脂肪の入り 最高ランクの評価

■白河の肥育農家 深沢敏美さん(63)ナツさん(57)夫妻
白河市東の牛の肥育農家である深沢敏美さん(63)・ナツさん(57)夫妻が育てた牛が、東京都中央卸売市場食肉市場で開かれた全国肉牛事業協同組合第3回枝肉共励会(交雑種)でグランドチャンピオンに輝いた。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で県産牛肉の市況が低迷する中での栄冠。敏美さんは「受賞で一筋の光が当たった思いがする」と畜産を続ける決意を新たにしている。
共励会は3月7日に開催され、全国17道県から80頭が出品された。深沢さん夫妻の出品牛は最高ランクのA5。肉のきめと色、光沢、脂肪の入り具合などで高い評価を受けた。
2人は肥育を始めて今年で31年目。仙台中央食肉卸売市場で月1回開かれる共進会で最高賞を何度も受賞した。良質の牛肉生産が軌道に乗り、平成23年に周囲への感謝を込め30周年の記念行事を催そうとした矢先に原発事故が起きた。
県産の牛肉価格は暴落。良質の肉牛を育てるために飼料を工夫し愛情を注いで育てた牛が、信じられない安値で競り落とされた。歯を食いしばって耐えるしかなかった。
今年に入り少しずつ市況は回復しているものの、原発事故前に比べ価格は半分程度という。収支を優先させるなら飼料を見直すなどコスト抑制も選択肢だが、敏美さんは「お客さんの信頼と肥育農家としての誇りは決して失いたくない」と、これまで通りの肉質優先のモットーを貫く覚悟だ。
市況低迷により資金も不足、新しい牛を買い入れることもままならない。あまりにも過酷な経営に「廃業」の二文字が脳裏をよぎることもある。それでも「肥育は自分たちが好きで始めた仕事だから」と不安と闘いながら仕事に励む日々を送っている。