客の笑顔見たい 道の駅よつくら港の店が損壊 「いわき・ら・ら・ミュウ」に出店
■「そば処心平庵」店長 鈴木富士子さん(50)
「津波でほとんどのものを失ったが、そば練り機が無事だったことが励みになった」。いわき市小名浜の市観光物産センター「いわき・ら・ら・ミュウ」に出店した「そば処心平庵」店長の鈴木富士子さん(50)=いわき市常磐上湯長谷町=は震災当時を振り返る。
いわき市四倉町の道の駅よつくら港で「川内高原そば」の名前で営業していた。地元住民に愛され、リピーターも多い人気店だった。東日本大震災発生時、店内にいた鈴木さんは津波の危険を感じ、高台へ避難した。数日後、店の様子を見に入った。壊滅的な状態。残されたのは、店の近くの水たまりに浮いていた「そば練り機」とずんどう鍋だけだった。
数日間は何もする気になれなかったが、道の駅ひらたから「そばを打ってくれないか」と相談があり、快諾した。それをきっかけに避難所でもそばの振る舞いを始めた。話を聞き付けた顔なじみの客も訪れ、おいしそうにそばを食べてくれた。目標を失いかけた鈴木さんは心を決めた。「店を再開しよう。お客さんの笑顔が見たい」
再開した店には気心が知れた以前のスタッフも戻ってきた。念願のそば打ちコーナーも設けた。通路に面していてガラス張り。来館者が興味深そうに眺める。「少し恥ずかしいけど、そばを打てる今が最高。これからは福島のそばのおいしさを全国に伝えるのが目標」と額に汗し、笑顔を見せた。