にぎわい取り戻す 11月1日、再開 地域復興の後押しに

11月の再オープンが決まり、サービスの構想を練る佐久間さん

■土湯温泉の向瀧旅館
 東日本大震災で被災し休業していた福島市・土湯温泉の向瀧旅館が11月1日、再オープンする。子どもからお年寄りまでにぎやかな声が響く旅館を取り戻したい-。そんな思いが常務の佐久間輝さん(37)を突き動かす。震災後、旅館16軒のうち5軒が廃業した土湯温泉で、創業90年余りの老舗旅館の復活が地域の復興を後押しする。
 荒川を臨む9階建ての旅館は震災で外壁や屋根、客室、空調設備が壊れた。昨年4月、東京電力福島第一原発事故で浜通りから多くの人が2次避難所として土湯温泉の各旅館に身を寄せたが、復旧前の向瀧旅館は受け入れられなかった。「目の前に困っている人がいるのに手助けできない」と、もどかしい日々を過ごした。
 資金繰りに奔走する毎日。当初は今夏の再開を目指したが、新たな損壊も見つかるなど、予期しないことの連続で、予定はどんどんずれ込んだ。破損が大きい部屋の一部の改修は先送りするしかなく、再開後も客室78室のうち27室は使えない。従業員は60人余りいたが、いったん全員解雇せざるを得ず、新体制では40人程度しか雇えない。
 再オープンに当たって心配事は尽きないが、毎日のように全国から励ましの電話が入る。「頑張って」「絶対に泊まりに行くからね」。1つ1つの言葉が勇気をくれた。再開を待ち望む常連客から入った年末年始の予約は、既に20件を超えた。
 震災前、学校の長期休業中に家族連れを対象に小学生以下の子どもの宿泊料を無料にするプランが人気だった。原発事故で多くの子どもが県外に避難する中、「今だからこそ子どものためのサービスが必要だ」と構想を練る。1度は途切れた夢の続きが間もなく始まる。