先祖代々の味残す 道の駅に新店舗 「もったいない」妻の一言後押し

■いわき・四倉のそば店「松の月」店主 佐藤光さん 48
東日本大震災による津波で全壊し、先月11日に改装オープンした、いわき市の「道の駅よつくら港」。施設内に同時に開店したそば店「松の月」が連日、にぎわっている。道の駅近くにあった店舗が津波で壊れてしまい、店主の佐藤光さん(48)=同市四倉町出身=が「先祖から受け継いできた味を残したい」と再出発した。
大正時代から続く老舗として地元で親しまれていた。しかし、津波で店の設備が使えなくなり、佐藤さんは精神的にも打ちのめされた。一時は店を続ける気力を失い、器も全て処分した。
東京電力福島第一原発事故に伴う県外避難などを経て昨年3月末に市内平の借り上げ住宅に転居し、妻の素子さん(47)と別の仕事に就いた。だが、素子さんの一言が心を揺さぶった。「もったいないね」。4代にわたって守り抜いてきた味。このまま絶やしていいのか考え始めた。昨年の大みそか、四倉町の住民にそばを振る舞った。「おいしい」と喜ぶ姿を見て、再起の決意が固まった。
オープン後は新規の客も詰め掛けた。あまりの客の多さに地元の常連が来店を遠慮していたほどだったが、1カ月が過ぎ、ようやく落ち着いてきた。顔見知りが訪れては声を掛ける。「元気だったかい」「待ってたよ」。一つ一つの言葉にうれしさが込み上げる。
道の駅の復活で四倉地区には少しずつにぎわいが戻ってきた。「自分の店で復興にひと役買おうとか大層な考えはない。取りあえず全力でやっていきたい」。そばをゆでる表情には喜びと、やる気があふれていた。