アットホームな店 再び 郡山で理髪店オープン 地域定着へ、同郷の客も

郡山市安積町に自分の店を開いた雨貝光さん(左)と妻明美さん(奥)

■富岡から避難の雨貝光さん(46)・明美さん(45)夫妻
 近所の家族が気軽にやって来る、富岡町にいたときのようなアットホームな店を再び-。郡山市に避難している雨貝光さん(46)と妻明美さん(45)は9月下旬、理髪店「カット・ヒカリ」を同市安積町荒井字河葉池1の2にオープンさせた。開店から半月。不慣れな土地で不安を抱える中、同郷の来店者も増えてきた。新天地での挑戦に少しずつ自信も芽生え始めた。
 雨貝さん夫妻は、震災直後に富岡町の自宅兼理髪店「ファミリーサロン・ヒカリ」から息子2人を連れ、郡山市の姉を頼り避難した。落ち着いた後、警戒区域指定前の4月に戻って見た店は何一つ変わっておらず後ろ髪を引かれた。「あまりにもそのままで...。つぶされたり、津波にのまれたりなら、諦めもつくが」。光さんは当時のやるせなさを語る。
 しかし、いつになるか分からない「帰還」を待つ気にはなれなかった。着の身着のままでやって来た見知らぬ地で、大学生の長男、サテライトの高校に通う次男、小学生の三男を守り育てなければならない。余震や放射線、賠償問題など不安ばかりだったが「やるしかない」と腹をくくった。
 避難した翌月の4月には職を探し始めた。5月から市内の理髪店で働きながら空き店舗を探し続けた。今年7月、知人の紹介で理髪店だった店舗を借りることができた。
 カット価格は周辺の相場に合わせ以前の半値以下に設定した。周りに知り合いがほとんどおらず、常連客が付くまでどれほどかかるか。富岡の店のローンも支払いは停止しているが、いつ解除されるか分からない。
 それでも時々、店には富岡町の知り合いが訪れてくれる。仮設の集会所に置いたチラシを見て足を運んでくれる町民もいる。「富岡町を大切にしながら、この土地にしっかり根差していきたい」。光さんは明美さんと目を合わせ、力を込めた。