寄り添う(中) 原発事故は不条理 被災者の声伝え続ける

仮設住宅で行われている見守り活動。市町村は避難者の状況把握に努めているが、人員不足に悩む。早期帰還や災害公営住宅の整備が急務だ=1月17日、南相馬市の仮設住宅集会所

■福島民報社 報道部 鈴木仁記者 39

 「家に帰りたいとせがむ肉親の最期を見知らぬ土地でみとってしまった...」。福島市の借り上げ住宅の一室。遺影に手を合わせる避難者の縮こまった後ろ姿に、東京電力福島第一原発事故の不条理を見た。
 原発事故による避難などで命を失った人たちの実態や課題を「原発事故関連死」として浮き彫りにするために取材を続けている。古里に戻れず、大切な家族を失った遺族の苦悩に触れるたび、一人一人の命の重さとともに、寄り添い続ける責任を痛感する。
 東日本大震災と原発事故に伴う避難などが要因で亡くなったとして、県内の市町村が震災関連死と認定した死者数は昨年12月、1600人を超え、地震や津波による直接死を上回った。同じ被災県の岩手、宮城では見られない異常な事態だ。
 関連死は今も後を絶たない。背景には避難生活の長期化がある。原発事故の発生から間もなく3年となるが、約14万人の県民は古里を追われたままだ。将来が見通せず、疲労とストレスはたまり続けている。仮設住宅は劣化が進み、今冬の厳しい寒さに避難者からは「もう限界だ」と悲痛な声が漏れる。
 避難区域を抱える市町村は仮設住宅などで住民の見守り活動に取り組んでいる。懸命の取り組みも、人手の確保が思うに任せず、点在する仮設住宅や借り上げ住宅で暮らす全ての住民の状況を把握するのは難しい。
 一日も早く避難者を苦痛から解放し、穏やかな日常を取り戻さなければ、関連死の根絶は不可能だ。早期帰還には除染やインフラ整備、災害公営住宅の建設などが急務だが、「生活再建」の槌音(つちおと)はまだ聞こえてこない。
 関連死に認定された人の遺族らに支払われる災害弔慰金の支給制度は課題ばかりが目に付く。法に基づく支給は原則として地震や津波など自然災害の被災者が対象で、国は原発事故に伴う死を「その他の異常な自然現象」に含めた。
 認定作業は市町村が担うが、時間の経過とともに事故と死の因果関係の見極めは難しさを増している。広範囲に甚大な被害をもたらした大災害なのに、国は既存制度を拡大解釈したまま運用し、市町村任せを続けている。
 「お金が欲しいわけじゃない。家族がなぜ死んだのかを明らかにしたいだけだ」。認定を求める被災者の声が胸に刺さる。原発事故の収束、避難生活の終わりは見えない。不条理を放置しないため、被災者の声を発信しなければならない。

■原発事故関連死
 県によると、震災関連死の死者数は19日現在、1656人で、震災や津波で亡くなった直接死の死者数1603人を上回り、今も増え続けている。岩手、宮城両県の関連死者数は死者全体の1割に満たず、本県が突出している。避難生活に起因するケースが目立つため、福島民報社は関連死を「原発事故関連死」と位置付け、国の対応の不備を指摘し、新たな救済策の必要性などを訴えている。