第1部 ふくしまの叫び(5) 実態に即した制度を 事業の再建できない

郡山市に開いた歯科医院で治療に当たる新妻さん。事業再建のため努力を続ける

 郡山市堂前町のビル2階にある「にいつま歯科医院」は今年5月にオープンした。東京電力福島第一原発事故に伴い、川内村の新妻学さん(49)が大熊町の医院を移転し再開した。歯科治療に加え、歯を白く美しくする審美歯科も手掛ける。清潔感あふれる院内は最新の機器がそろう。

 移転再開から7カ月が過ぎた。最新のセラミック修復治療や歯のホワイトニングを希望する女性が来院するなど患者数は徐々に増えている。原発事故で県内外に避難した双葉郡の患者が来てくれることもある。患者一人一人と丁寧に向き合いながら治療に励んでいる。

 しかし、患者数は100人に満たない。大熊町で開業していた当時と比べ4分の1程度だ。経営は厳しい。新たな地で事業を始める難しさを痛感する。


 診療を終えると、ため息が漏れる。会計事務所から6000万円にも上る過去5年分の国税納付額の試算表を受け取ってから、その回数は増えた。

 原発事故に伴う営業損害の賠償金は課税対象となっている。受け取った金額の半額近くを納税しなければならない。歯科医院の施設整備や設備購入の費用に充てた県の「グループ補助金」の約4000万円も課税され、こちらもほぼ半額を納税することになっている。

 営業損害の賠償金は3カ月に一度、東電から支払われる。口座に振り込まれた賠償金は課税額を残した上で、スタッフの人件費や家賃、光熱費などの運転資金に回る。

 それでも足りず、原発事故前まで、こつこつとためてきた貯金に加え、個人に支払われた精神的損害の賠償金も歯科医院の運転資金に回してきた。

 「原発事故前の利益から減った分を補うための賠償制度じゃないのか。(税金が掛かり)半分しか残らなかったら、事業再建につながらない」。納得できない思いが込み上げる。


 豊かな生活は原発事故によって奪われた。生活再建のための賠償金は税として消える。「大熊で診療できさえすれば、こんな思いはしなくていいのに...」。立て直そうと歯を食いしばって努力を続けている。しかし、報われない。賠償金で潤っているように世間が見ているのも耐え難い。

 納税猶予期間の設定は被災者の実態に即しているのか、避難という非常事態が続いているのに通常と同じ税率でいいのか。「賠償と納税の制度を一体で考えてほしいんだ」