福島をつくる(3) 第1部 企業の覚悟 林精器製造(須賀川)

腕時計の研磨作業をする社員。熟練の技が商品価値を高める

<労使の一体感強く>
 須賀川市の精密金属部品加工業・林精器製造社長の林明博(65)は東日本大震災の発生後、社員と会社の一体感が一層強まったと感じている。
 主力工場の7割が壊れ、生産能力の大半を失った。存続の危機を協力して脱した今、全社員の意識は良い製品作りに向かう。技術と精度の良さを生み出すために、人づくりや職場環境の向上は欠かせないと考えている。

 金属を加工する大型の機械がずらりと並んだ一画で、車田一吉(59)は腕時計の精密な内部を守る時計側「ケース」の研磨作業を担っている。先の細い工具で磨き、滑らかな曲線を生み出す。入社44年の熟練者も細心の気遣いをする。
 製品を磨く作業は単純だが、車田は「一つでも欠点があれば会社の信頼を失う」と一人一人の責任を強調する。隣に座る小林寿子(60)は「品質にこだわる会社の姿勢が明確だから業務に集中できる」と現場の声を代弁した。
 精器事業部付特命スペシャリスト・事業改革担当の吉田清一(58)は「会社が方向性を示せば社員はついてきてくれる」と自信を持つ。震災発生時、総務課長として被災状況の聞き取りや給与の管理などに奔走した。全社員を玉川村の玉川工場内にある食堂に集めた。おびえたような社員の目が忘れられない。林が経営方針を説明する。「工場はなくさない。解雇もしない。お金は私が責任を持つ。お客さまはわれわれの復旧・復興を待っている。全員の思いを結集し立ち直ろう」。以来、社員は目線を前に向けた。

 平成26年3月、林精器製造は経済産業省の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選ばれた。産業競争力を向上させて地域経済を支え、新たな雇用を生んだと評価された。
 ケース作りで培った技術を自動車部品のめっき加工や、半導体の製造装置作りに生かしている。東京電力福島第一原発事故の風評などで一時は売り上げが原発事故前の6、7割に落ちたがようやく回復してきた。
 精器事業部営業グループマネジャーの山田昇(57)は今年の営業部門の目標を掲げた。「社員は自信を持って製品を作っている。技術や品質の高さ、精度の良さをアピールし、新しい舞台で勝負する」(文中敬称略)