福島をつくる(4) 第1部 企業の覚悟 林精器製造(須賀川)

須賀川本社事業所で、機械の作動状況を確認する林。ものづくりへの情熱は新たな分野に挑む力となっている

<医療機器 製品化へ>
 須賀川市の精密金属部品加工業・林精器製造は5日、今年の作業を始めた。「東日本大震災からの苦労に報いる年にしたい。全員の力で会社の真の復興を目指そう」。須賀川本社事業所の年賀式で社長の林明博(65)は社員に呼び掛けた。
 今年、創業94年を迎えた。腕時計の内部を守る「ケース」製造で培った技術を幅広い分野に活用していく。医療分野は林の兄で先代社長の洋一郎(71)が事業拡大を見通して平成21年に方針を固め、研究と開発を進めてきた。
 県は医療関連産業の誘致を東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を目指す重点施策に掲げており、成長分野として注目されている。

 26年11月、ドイツのノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州で開かれた国際医療機器技術・部品展(COMPAMED)に、林精器製造は非接触超音波流量センサーを出展した。点滴などで使う輸液チューブ中の液体量を正確に測る。超音波を使うため触れずに測定でき、作業の効率化と安全性向上につながると期待している。日大工学部と開発した試験段階の製品だったが、反応は上々だった。国内外の医療機器メーカーなど12社から問い合わせがあった。
 医療機器の開発は玉川工場を拠点にしている。メカトロ事業部付特命スペシャリスト・医療機器開発担当の武田敏則(59)は「会社の目指す医療機器を製品化できれば将来的に経営の柱になる」と手応えを語る。
 他に約30年前から携わる腕時計のチタン加工技術を生かし、福島医大と共同で人の骨を再生させるチタン製の部品開発に取り組む。東北大医学部とは歯周病を治す器具の研究と開発を進めている。いずれも試作から製品化までの速さが求められ、製造・販売する企業の要望を的確に反映できれば販売のめどがつく。

 須賀川本社事業所の1階に飾られた社是「いいものをつくる」には、再建の支援を受けた多くの人々への感謝と、貢献する誓いが込められている。
 林は「機械の性能がどんなに発達しても、製品は人が作っている。いいものを作り続ける企業活動が市や県の発展と復興につながる」と説く。
 腕時計の部品製造技術はどこまで応用できるのか。林は信じている。「ものづくりへの情熱がある限り、可能性は無限に広がる」(文中敬称略)