福島をつくる(5) 第1部 企業の覚悟 浜通り交通(楢葉)

<「安心管理」を徹底>
白色の大型バスが東京電力福島第一原発まで毎日走る。楢葉町のバス会社「浜通り交通」は年末年始も作業員を乗せ、6号国道を南北に往復した。
広野町と楢葉町にまたがるJヴィレッジと広野町の広野工業団地を出発地にしている。バスは作業員を乗せてJヴィレッジから大熊、双葉の両町に立地する福島第一原発へ向かう。広野工業団地からは楢葉、富岡の両町にある福島第二原発へと移動する。1日に約20台が動き、1台が4~6往復している。送迎する作業員は1日平均で延べ1500人から1600人に上る。
楢葉町の本社は平成23年の原発事故で警戒区域となり、いわき市に避難した。26年、市内自由ケ丘にもう1つの拠点となるいわき本社を設けた。社員は約50人おり、バスは約40台を所有している。原発事故前は社員8人、バス8台の小規模な会社だった。作業員を送迎する仕事を請け負い、社員、バスともに増やしてきた。
バスは原発構内に入る。核燃料の取り出し、増え続ける汚染水、依然として高い放射線量...。事故収束はほど遠く、運転は不安の中で続けられる。
利用者が安心してバスに乗ってもらえるように、社長の永山剛清(53)は観光や葬儀向けのバスと原発に入る車両を分けて運行していたが、ある顧客からの質問に凍り付く。「浜通り交通は原発に入っている。このバスも原発に入っているのか」。外装が同じバスは、区別しても乗客には同じに映った。
作業員を原発に送るバスと、葬儀や観光など原発以外で利用する車両を色分けする-。永山は専務の塚越良一(50)と話し、既にあった白色のバスを作業員向けに、新たに購入した青色を観光・葬儀用にした。苦渋の決断だった。青色は原発周辺を走らせない。
福島第一原発を安定させるために作業員を運ぶバスは重要だ。運転手も廃炉作業を支えている自負がある。ただ、一般の利用者には敬遠されがちになる。さらに、収束作業が進み作業員を運ぶ仕事が減ってくれば、大幅に増えた社員をどう維持していくか。
「現在は原発作業員を送迎する仕事が8割を占めるが、観光・葬儀用も力を入れる。生き抜く柱を残したい」。永山と塚越は毎日バスを動かしながら将来を見詰める。
(文中敬称略)