福島をつくる(6) 第1部 企業の覚悟 浜通り交通(楢葉)

<復興支える使命感>
「おはようございます。本日の乗務に入ります」
午前5時。浜通り交通の貸し切りバスを運転する若手社員はいわき市四倉町の南部営業所に入ると、大きな声で運行管理者に報告した。出勤時間は毎日異なる。利用団体の乗車時間に合わせるためだ。前日は午後8時まで走り、すぐに体を休めた。運転手は黙々と車両の点検を始める。
「安全管理に、ここまですればいいという枠はない」。浜通り交通社長の永山剛清(53)は反省と危険の予測の繰り返しが毎日の無事を生むと考えている。
出発前の運転手は徹底した確認をする。運行管理者から車の鍵と運行の流れが示された指示書、点検票、乗車する団体を記した表示板を受け取る。車両の外回り、タイヤ、エンジンルームに異常はないか。ヘッドライトなど25カ所ある灯火類、運転席、車両内を見て回る。
事務所では飲酒検査を受け、その日の健康状態を報告する。体調が優れなければ無理をさせない。大きな事故は運転手の体調が要因となった場合が少なくない。運行管理者は念入りに尋ねる。
運転手はバスのある車庫に戻ってからも再度、オイル漏れやタイヤに亀裂はないかを調べる。社で決めた安全十訓を唱和し、無事故、無違反を誓う。「安全はすべてに優先する」。社是にも掲げた。
永山は安全にこだわる。本社のある楢葉町の小学校で交通安全教室を毎年数回開いてきた。校庭に大型観光バスを乗り入れ、児童に内輪差や大型自動車の運転者から見えない死角を説明する。「誰も交通事故に遭わないようにしたい」と願う。
平成26年秋には日本バス協会の貸し切りバス事業者安全性評価認定制度に適合した認定事業者になった。法を守り、安全を確保する責任体制が認められた。バスを新たに購入するたびに無事故を願って修祓(しゅうばつ)式を行い、社員と人を運ぶ責任の重さをかみしめる。
主な営業区域とする双葉郡といわき市は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を目指し、復旧工事や除染に当たる作業員、住民の移動が激しい。「交通事故を起こせば少なからず復興の妨げになる」。永山は命を守り、復興を支える使命感を感じている。(文中敬称略)