(8)新たな古里産品に

オートキャンプ場まつりで菊芋マドレーヌを販売する生徒

■いわき市 遠野高生徒会・家庭クラブ(中)

 いわき市の遠野高校長を務める森田晶代(58)は平成25年4月に着任した。市南西部に広がる静かな山あいの地域は子どもよりお年寄りの姿が目立ち、元気を失いかけているようにも見えた。
 東京電力福島第一原発事故による風評被害で、住民の暮らしを支えている農業が苦しい状況に追い込まれているとも聞く。「高校生の斬新な発想を生かして地域を盛り上げることはできないか」。家庭科が専門の森田は地元の農産物を生かし、名物料理を作れないか家庭クラブの生徒に持ち掛けた。

 家庭クラブの生徒は市名産のトマトを具に入れた「イタリアン・トマトぎょうざ」を考案した。
 同年9月に開かれた地元の恒例行事「満月祭」で試食品として来場者に配った。さっぱりした味は人気を集めたが、保存がきかないため売ってくれる店は現れなかった。
 ならば、日持ちが良く幅広い世代に好まれる焼き菓子はどうか。地域の農業生産法人が栽培しているキクイモと、遠野の農家の約7割が生産しているコメに目を付けた。
 キクイモは血糖値を抑えるとされる多糖類のイヌリンを多く含み、健康食材として注目されている。あくの強さやべたべたした口当たりを抑えるため、バターや卵などの配合を工夫しマドレーヌに仕上げた。コメは米粉の食感を生かすよう試作を繰り返し、サブレーにした。
 「甘さのバランスが良く、おいしい」。イタリアン・トマトぎょうざを提供した翌年の満月祭でお披露目したところ、評判を呼んだ。森田は「新たな古里産品として育てることができるのではないか」との思いを強くした。

 各種イベントなどの際、学校がキクイモとコメを地元農家から買い上げ、いわき市内の菓子店でマドレーヌとサブレーを作る流れができた。
 地域の素材を生かして加工食品を生み出した遠野高生の取り組みは県内に知られるようになる。同校は風評対策の一環として県教委が27年度に新設した「子どもがふみだす ふくしま復興体験応援事業」の実施団体に選ばれた。
 「遠野の新名物、菊芋マドレーヌと米粉サブレーはいかがですかー」。満月祭や11月の遠野オートキャンプ場まつりの際、響き渡る若々しい声は山あいの集落に新たな活気をもたらしている。(文中敬称略)