「霞が関」の都合(5) 森林再生めぐり地元反発 崩れた既定路線

県土の7割を占める山林のどこまでが除染対象となるのか。県民は注視している=伊達市霊山町小国地区

 8日夜、東京都内のホテルの一室。森林除染の徹底を求め、環境省などへの要望活動を終えた県森林組合連合会の役員と元復興相の根本匠(衆院本県2区)が顔をそろえていた。「あの発言は逆に良かったかもしれないな」。そんな言葉が飛び出した。
 その発言は昨年12月21日、東京で開かれた環境回復検討会の終了後、記者団の取材に応じた環境副大臣の井上信治から飛び出した。「森林を全て除染するのは困難。悪い影響の方が大きい」と言い切った。
 発言の背景には、29年3月までに居住制限、避難指示解除準備両区域を解除するとした政府目標がある。帰還を目指す市町村のためには、遅くとも解除の1年前までに森林除染の方針を明確にすべきとの判断だった。しかし、事態は井上の思惑とは別の方向に転がり始めた。

 環境省は24年9月に開かれた環境回復検討会で、森林の縁から20メートル以内の生活圏やキャンプ場、ほ場など人が立ち入る箇所を除染する方針を示していた。裏返せば、それ以外の箇所は除染しないことを意味する。環境省にとって、これが森林除染の既定路線だった。
 「霞が関は森林除染の問題は決着したと思っていただろうが、地元はそう認識していなかった」。県森林組合連合会長の秋元公夫は指摘する。
 井上発言に地元は激しく反発した。関係団体などが環境省のみならず林野庁、復興庁に方針見直しを求め押し寄せた。環境相の丸川珠代は閣議後の会見で「地元の思いに寄り添っていくのが大事だ」「林野庁と協力してやっていく」などと火消しに走った。

 1月中旬、根本ら自民党東日本大震災復興加速化本部の幹部たちは政治主導による解決に乗り出した。国会周辺の建物に丸川と井上を呼ぶと、林野庁などと連携して対策を講じるよう求めた。数日後、根本に環境省から「環境、農水、復興の3省庁によるプロジェクトチーム(PT)を設置する」と報告があった。
 PTは井上発言を修正する形で、これまで示していなかった「里山除染」の実施に向け検討に入った。しかし、県土の7割を占める山林のどこまでを里山とするのか。答えはまだ明確になっていない。(敬称略)