(7)《中東進出》型破りな海外展開 いなわしろ天のつぶ

中東・カタールの首都ドーハの高級スーパー「モノプリ・ドーハ店」に猪苗代町産米が並んでいる。筆字でしたためられた商品名は「いなわしろ天のつぶ」。真っ赤な日の丸を背景にした稲穂の図柄が異彩を放つ。町が昨年夏に県内の自治体で初めて中東向けに輸出を開始した。
プロジェクトチームのリーダー格、猪苗代町農林課の小板橋敏弘(47)は「評判は上々。売れ行きも好調だ。海外での評価を逆輸入して日本国内での販売量の拡大を目指す」。果敢な挑戦がもたらす成果に期待が高まる。
猪苗代町は「天のつぶ」の栽培に不向きとされていた。開発した県が普及対象地域として示したのは「標高三百メートル以下の平地」。磐梯山山麓に広がる町平野部の標高は約五百二十メートル。寒さを克服できるかは未知数だった。
試験栽培を繰り返した結果、課題をクリアし、町産米振興の切り札として平成二十六年に出荷が始まった。だが、国内市場は県内を含めて産地間競争が激しい。後発の町産「天のつぶ」が割って入るには厳しい情勢だった。さらに東京電力福島第一原発事故の風評が重くのしかかる。
小板橋や町の生産者が導き出した逆境の打開策が海外展開だった。世界的な健康志向の高まりを追い風に利用して海外で町産米の確かな評価を築く。その上で国内外に販路ネットワークを築けないか。町産「天のつぶ」の八割を輸出する大胆な計画だった。
海外デビューは二十七年二月。イタリア・ミラノで開かれた和食の試食会だった。ヨーロッパは日本食ブームに沸く。小板橋らは炊き上がりの香りや光沢、食感がすし飯に向いている点をアピールし、高い評価を得た。
同時に小板橋の頭には別のプランが浮かんでいた。ミラノへの渡航途中に立ち寄ったアラブ首長国連邦のドバイでの偶然の出会いがヒントとなった。
中東で天のつぶを売る-。型破りな構想だった。(文中敬称略)