(8)《奇策》生き残り懸け攻勢 いなわしろ天のつぶ

「いなわしろ天のつぶ」の販路開拓先は海外に決まった
「いなわしろ天のつぶ」の販路開拓先は海外に決まった

 猪苗代町産米「いなわしろ天のつぶ」は、東京電力福島第一原発事故で厳しい風評にさらされている町産農産物の販路回復の切り札だった。

 全国では既に他の地域で米のブランド化が進んでおり、後塵(じん)を拝する状況だった。いかに販路を築き、広げるのか。町は難題に直面した。農林課内にプロジェクトチームを組織し、自身も生産者で農政に明るいベテラン職員の小板橋敏弘(47)をリーダーに据えた。


 事業方針を協議する猪苗代町農業活性化協議会・米のブランド化推進部会は重苦しい雰囲気に包まれた。見通しが一向に立たない中で小板橋は発言を求められた。何も算段はなかった。原発事故から二年余りがたっていた。ありきたりのアイデアでは苦境を切り開けないという意識が思わず口を突いた。

 売り先は世界だ-。

 唐突な発案に出席者は息をのんだ。大胆な発想でなければ現状を打開できないと意見は一致し、提案は承認された。意を決したひと声を発端に町は海外進出という思い切った展開にかじを切った。

 だが、町単独で米を輸出した経験はない。まったくの手探り状態だった。当初は相談先すら思い当たらなかった。わらにもすがる思いで小板橋は郡山市にある日本貿易振興機構福島貿易情報センター(ジェトロ福島)に足を運んだ。

 開口一番、小板橋は切り出した。「町の米を海外で売りたい。力を貸してほしい」(文中敬称略)