(11)《試練》世界へ確かな一歩 いなわしろ天のつぶ

猪苗代町産米「いなわしろ天のつぶ」の中東での売り込みに好感触を得た猪苗代町のプロジェクトチームで販売戦略を担当する小板橋敏弘(47)の提案に町やJA関係者は困惑した。中東で米が売れるのか-。日本と食文化の異なる中東で、町の米が食卓に上る光景が想像できない関係者は少なくなかった。現地情勢の報告を受けて町のブランド化推進部会は決断した。ヨーロッパから中東に流通ルートを築く計画を立てた。
平成二十七年十月、町プロジェクトチームはアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに本社を置く食品販売会社の仕入れ担当者との商談に臨んだ。品質に絶対の自信を持って乗り込んだ一行を落胆させる答えが返ってきた。
福島の米を売ることはできない-。
日本から約八千百キロ離れたアブダビでも東京電力福島第一原発事故の風評という壁が立ちはだかった。表情を硬くする担当者に小板橋は町によるモニタリング検査の結果や県保健衛生協会が発行した放射性物質検査の証明書などを示して安全性に理解を求めた。帰国後も電子メールでやりとりを続け、粘り強い交渉を通して信頼関係を築いた。
売買交渉を受けて町プロジェクトチームはJAあいづ(現JA会津よつば)とともに二十八年二月にUAEのドバイで開かれた国際食見本市「ガルフード2016」に出展した。
反応は予想以上だった。現地アブダビの食品販売会社、その系列でドーハに本社のある食品販売会社との契約が相次いでまとまった。取引量は両社合わせて四百二十キロ。販売量としては少なかったが、中東展開への確かな一歩を刻んだ。(文中敬称略)