(13)《中規模流通》消費者とより近く クールアグリ(郡山)

初出荷を前に野菜の生育を確かめる関谷。中規模流通に懸ける思いは大きい
初出荷を前に野菜の生育を確かめる関谷。中規模流通に懸ける思いは大きい

 県内の若手農業者でつくる一般社団法人「クールアグリ」(郡山市)は二十日、農産物を一つの窓口で共同で受注し、独自の流通経路で直接消費者に届ける事業に乗り出す。第一弾は県南地方の野菜を郡山市の飲食店に納める。鮮度が高く、良質な商品に「生産者の顔が見える安心感」を乗せて地場産品の魅力を伝える。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故という逆境を乗り越えようと結び付いた次世代農家の挑戦が始まる。


 目指すは「中規模流通」という新たな発想に基づく地域内流通システムだ。委託販売と市場流通などの一般的な「大規模流通」、直売や消費者直販を示す「小規模流通」の中間に位置付けている。味や鮮度、安全への意識が高い販売先を開拓し、統一の発注様式で受注。各農家から集荷して二日以内に消費者に届ける。

 大規模流通は店頭に並ぶのに数日かかる。小規模流通は小口販売のため需要の掘り起こしに限界がある。中規模流通は流通経路の共有により生産者の集荷作業の負担を軽減し、生産活動への労力集中と収益力の強化につなげる。複数農家から短期間に出荷することで消費者にとっては幅広い選択肢から鮮度を保った商品を手にできる利点がある。

 法人の理事を務める白河市の野菜農家関谷裕幸(45)=関谷農園=は二十日に初出荷を控える一人だ。

 県南端の白河市でさえ、原発事故の風評と無縁ではなかった。事故直後は、関谷農園もカブなどが出荷停止に陥った。「単なる生産者と消費者の関係では切り捨てられる」。食べる人との距離を縮める大切さを痛感し、車に野菜を積んで市内で売り歩いた。

 品質や作り手の思いをじかに伝えるうち、地元の小売・飲食店から注文が入り始めた。地域内消費で活路を見いだした経験から、「危機に強い農業」とは何かを学んだ。志の同じ仲間が協力すれば、チャンスは開けるのではないか-。顔の見える農業への思いを強くした。

 「良い食材には需要が生まれると実感している。中規模流通には成功の可能性が広がっている」。関谷は雪に囲まれたパイプハウス内で白い息を吐き、自慢の野菜を見つめた。(文中敬称略)