(4)【第1部 コメを巡る事情】流通の仕組み 引き戻せぬ取引先

コメの取引価格はどのように決まるのか-。明確な単価があるわけでなく、求める側(需要)と求められる側(供給)の間の微妙なさじ加減で形成されていくと、流通関係者は明かす。外側からは見えにくい世界が存在する。それが、県産米の価格低迷の背景にあるようだ。
食卓に上る一般的なコメの流通ルートは【図】の通り。小売店などへの直接販売のほか、JAと民間業者を通す二つの流れがある。県によると、食用米の県内生産量は年間三十三万トンほどで、おおむねJAに半分、民間業者と直接販売に半分が回る。
農家と集荷、集荷と卸売間の売買価格はともに農林水産省が業者から聞き取った額を参考に発表している「取引相場」が基となっている。JA経由も民間も同様だ。その年の作付けや前年の在庫状況も反映されるという。他の業者が売り買いした価格も参考にされる。さまざまな要素を取り込みながら決まっていくが、市場原理が働き、需要が少なければ当然、値は下がる。
東京電力福島第一原発事故以降、県産米は一俵(六十キロ)当たり全国平均より千円程度安い状態が続いている。
野菜・果物と比べ、コメは価格差が開きやすいと全農県本部の関係者は説明する。
野菜・果実は産地が限られている上、出荷時期が各地でずれる。例えばモモの場合、本県は八月、西日本の主要産地の和歌山県は七月に最盛期を迎える。産地の代替は利かないため、値段は極端に下がらない。
しかし、コメは別だ。日本中で広く生産される上、保存が利く。このため、人気が落ちた産地のコメの価格は敏感に動き、別の産地への切り替えも起きる。
流通の過程で一度、取り扱う産地を変更されたら、それを引き戻す労力は並大抵でないと県の農政担当者は指摘する。よほどの付加価値、魅力がなければ難しいと。
原発事故発生後、コメ作りに関わる県内の関係者は、その現実を痛いほど思い知らされることになる。いくら、「安全で安心なコメです」と訴えても厚い壁がある。