(6)【第1部 コメを巡る事情】集荷業者 適正価格、戻るのか

「むしろ、震災前よりも販売量が増えているよ」。県中地区のコメ集荷業者は、意外な言葉を口にする。
東京電力福島第一原発事故発生後、農家から買い取って卸売業者や外食業者に売るコメの量は事故前の七割ほどまで落ち込んだ。しかし、ここ一、二年は事故前と比べて一割ほど増え、創業以来最も多い状況が続いている。とはいえ、県産米の相場が下がっている影響などで利益は以前の八割ほどだ。
県、JA関係者によると、ここ数年、県産米の売れ行きが回復している。背景には外食産業の発展に伴い、飲食店などで使われる業務用米の需要が全国的に高まっている事情がある。
県中地区の集荷業者には、全国各地に店舗を持つレストランやコンビニエンスストアなどからの注文が相次いでいる。県産米は全量全袋検査により安全性が確認されているという認識が流通業界内に広がっているとした上で、「福島のコメは品質が良い。さらに、他県産に比べ安く仕入れることができるから、使い勝手がいいんだろうね」と推測する。
流通関係者によると、卸売業者や外食業者は入札で入荷元の集荷業者を決めるケースがある。複数の集荷業者がそれぞれ希望価格を提示し、最も安い値段を示した相手と取引が成立する。相場が下がっている県産米は希望価格も低くなり、結果的に卸売業者らに選ばれやすくなっているという。
しかし、安く買われるしわ寄せは最終的には農家に向く。
相場が安いままなのはなぜか。県内のコメの流通関係者はもはや、消費者の安全性に対する不安が原因ではないと説明する。
原発事故発生直後は安全への懸念から値が下がったが、時間の経過とともに心配は薄れてきた。しかし、県産米は一度、安い値が付き、市場全体の中にパズルの一ピースのようにはめ込まれてしまった。新たな付加価値が付かない限り、値段が上がる状況は考えにくいとの指摘もある。
「安全かつ品質が高いという県産米の価値に見合った価格に戻るべきだ」。全農県本部の関係者は真摯(しんし)に米作りに励む県内農家の思いを代弁する。
現状をどう打破すればいいのか。集荷業者の先にいる首都圏の卸売業者や小売店を訪ねる。