(7)【第1部 コメを巡る事情】卸売業者 強烈なアピールを

神奈川県の卸売業者の倉庫に積まれた県産コシヒカリ
神奈川県の卸売業者の倉庫に積まれた県産コシヒカリ

 県内の農家が丹精込めて育てたコメの七、八割は大消費地である首都圏など県外に向かい、一般家庭をはじめ飲食店や弁当店に届く。流通に関わる他県の関係者は県産米をどう評価しているのだろう。風評を感じているとすれば、どう対処しているのか。

 そのコメ卸売業者の事務所は、神奈川県内の閑静な住宅街の一角にある。東京電力福島第一原発事故が発生する前から、福島県内の集荷業者と取引を続けている。倉庫をのぞくと、「会津コシヒカリ 二十八年産」と印字されたコメ袋が山積みになっていた。


 扱う県産米の総量は年間七百~八百トンで、原発事故発生前に比べ二百トンほど増えた。このうち九割以上は関東地方産などと混ぜ合わせ、産地名を表示せずに関東圏の飲食店や弁当店に業務用として販売している。

 福島県産は重宝がられているという。品質が良いため、他県産米と混ぜれば味が増す。しかも、原発事故発生後は価格が下がっており、ブレンドしたコメを値段を抑えて売れる利点がある。混ぜ合わせれば「国産」の表示となり、「福島」の名が表に出ない。県産の取り扱い量が増えているのには、こうした背景がある。


 東京都内に本部を置くコメ卸売の業界団体によると、原発事故発生以前から県産米は業務用として流通するケースが多かった。事故が起きてから一、二年は福島産として販売すると「安全なのか」と買ってもらえない場合もあり、業務用に回る比率がさらに高まったと団体側はみている。

 厳格な検査により安全が保証されている上、流通関係者が「食味は非常に良い」と認める県産米。どうすれば原発事故発生前まで価格が戻るのか。現在より一層、「福島米」として首都圏の店頭に並び消費者に受け入れられるために何が必要なのか。業界団体の担当者は「新潟産など一流ブランドに勝る強烈なアピール力が必要だ」と言い切る。

 一方、コメ流通の最も川下に位置する首都圏の小売業者も原発事故発生後、県産米の取り扱いを巡り厳しい対応を迫られてきた。