(6)【第1部 宝を生かす】田中豪さん(下) 多様な働き方提案 女性活躍、地域に活力

「仕事と家庭の両立は難しい」。子育て中の多くの女性に共通する思いだ。保育所・幼稚園への送迎や家事のため、働く意欲があっても勤務地や就業時間が制限される。中小企業はフルタイムで働ける人材を求める傾向があり、求人と求職のミスマッチ解消が課題だ。
郡山市で子育て中の女性に仕事を紹介する「おしごと百貨店」を運営する一般社団法人スタンド・フォー・マザーズ代表理事の田中豪(たけし)=(35)=は、「限られた人材を有効に生かすため、多様な働き方を提案したい」と訴える。
大学時代から、困っている人や社会的弱者を助ける仕組みづくりに関心を持っていた。東日本大震災の被災地支援に携わる中で、仕事がしたくても企業に受け入れてもらえない若い女性の悩みを知った。働きたい女性と人手不足に悩む企業との懸け橋になれないか-。進む道を見つけた。
おしごと百貨店は、郡山市の人材サービス会社と協働で運営する。求人を出す企業や、仕事を求めて利用登録する女性から手数料などは取っていない。女性の個別相談も無料だ。おしごと百貨店に併設するカフェの収益を施設の管理費などに充てている。同法人は、他県の企業PR事業などの収益でおしごと百貨店の運営費を賄っている。
女性が仕事しやすい環境づくりとして、労働時間と仕事量を分け合う「ワークシェアリング」の本格導入を挙げる。それまでフルタイムで働いていた正社員一人分の労働時間と仕事量を、数人のパート社員に分担させる。短時間勤務を希望する人をパート社員として雇用すれば、女性の就労と働き手確保を両立できる-との考え方だ。
中小企業を訪問し、ワークシェアリングを踏まえた求人を出すメリットを説明している。最初はなかなか理解してもらえなかったが、根気強く提案を続ける。最近、企業から、どのような内容の求人を出せば応募してもらえるか、相談されるケースが増えた。「ここ数年で企業の意識が変わってきた」と明かす。
口コミなどで、おしごと百貨店を利用する女性は少しずつ増えているが、まだまだ認知度は低い。活動拠点の郡山市のほか、週に一回、田村市に出張所を開設している。郡山市での成果をモデルケースに、子育て中の女性が働ける場を県内各地に広げていきたいと考えている。
「仕事と家庭の両立を諦めないでほしい。伴走者として女性の活躍を支え、地域に活力を生み出す」。挑戦は始まったばかりだ。(文中敬称略)