(7)【第1部 宝を生かす】室原真二さん(上) 波乗りの聖地復活 北泉海岸に呼び込む

南相馬市の北泉海岸は全国有数の「サーフィンの聖地」として、多くのサーファーに愛されている。力強く大きな波が押し寄せる。長い堤防が風よけになり、天候に左右されず波乗りを楽しめる。二〇一〇(平成二十二)年まで、市が毎年夏に海水浴場として開放した。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生した二〇一一年から遊泳禁止になっていたが、昨年七月に九年ぶりに海開きした。
県サーフィン連盟理事長の室原真二(51)=同市小高区=は昨年、海開きに合わせてビーチイベントを催した。サーフィン体験を通じて子どもに海で遊ぶ面白さを伝えた。「ようやく人が戻ってきた。うれしい限り」。少しずつ聖地復活への手応えを感じている。
小高区で生まれ育った室原は、中学三年から北泉海岸でサーフィンに熱中する。自然と一体になる快感がたまらない。波乗りは生活の一部だ。地元のサーフボード製作工場での勤務を経て、二〇〇六年にサーフショップ「M.S.P」を小高区に開店した。
震災発生前、北泉海水浴場への入り込みは毎年五~八万人前後で推移した。昨年は約三万七千人が訪れたが、かつてのにぎわいには程遠い。二〇一〇年まで七万人を超えていた市の人口も、震災と原発事故の影響で昨年十二月一日現在、五万三千人余りに落ち込む。「何も手を打たなければ、地域が活力をなくしてしまう」。愛する古里の現状に危機感を募らせた。
交流人口を一人でも増やそうと、地域の宝である北泉海岸を生かしたまちづくりを思い描く。日本中からサーファーを集め、北泉海岸の素晴らしさを体感してもらおう-。全国規模のサーフィン大会や子どもが海に親しめるイベントを開けば、必ずにぎわいは戻ると信じた。
日本サーフィン連盟などに大会の開催を必死に働き掛けた。その思いが実を結ぶ。二〇一五年、震災発生後初めて、北泉海岸で県サーフィン連盟が主催する全国規模の大会を開くことができた。昨年七月にはプロの全国大会を誘致した。県内外のサーファーが戻ってきた。
その陰で室原は津波の犠牲者を思い、葛藤していた。(文中敬称略)